「馬鹿力、か。あいにくだね。あたしの今の姿に油断でもした? あたしの魂は月光に縛られ、闇夜に慟哭する獣だよ」

「そして、六条賢一の平凡な日常を守る犬、と?」

「その表現には苦笑してあげるよ。東城の血――誇りある一二三さんには、わからないでしょう。人外だからこそ平凡になりきれない苦しみを。どれだけの苦心で、あたしが賢一を守ってきたか、わからないでしょう」

わかるわけもないと思った。

一二三は、人外であることが誇り。

他者にはない力があってこそ、一二三は存在できる。

お母さ――いや、母上はああ言っているが、一二三は鬼の力を真に受け止めたい。

ほかのだれも持っていない、時代を越えてなお成長する力。

初めて、この衝動を知った時、嬉しかった。

何者とも違う存在意義が、自分の中にはあった。

誇りだと思った。

たとえ姓が東城ではなく、風間であろうと、一二三は鬼だ。

人外だからこそ、平凡ではない。

それに喜びを覚えるならまだしも、どうして、苦心を抱くことがあるだろう。