「甘いよ!」

繰り出した直後、正拳突きの反動も消えていないだろうに驚くほどの急停止を見せて、伸ばした腕を振り上げた。

こちらの拳が、そのあとを追う形になり、結局空振りとなる。

そこへカウンター、左の拳打が繰り出されていた。

とっさに重ねた掌で受け止める。

乾いた音が夕空へ響き渡り、足がアスファルトを滑った。

上靴のゴムが擦れ、焼け焦げる。

鼻を突く臭いとともに、背中がフェンスに当たった。どうにか止まる。

「……っ、馬鹿力め……」

思った以上の格闘センスに、多少なりとも油断をし過ぎたかと胸中、自らを叱咤する。

一二三の力は、東城から受け継いだ血は、こんな陳腐な小競り合いで遅れを取るものではないのに。

彼女は踏み込んだ姿勢からゆっくりと屹立へ戻り、繰り出した左拳を提灯のように振った。