一歩、二歩、三歩と歩いた彼女は、また、こちらへ対面を向けた。

『無』だった表情にいつの間にか、狂気じみたものが浮かんでいる。

口角を吊り上げ、目を細めたそれを、ひとは笑顔と言うのだが、果たして彼女のそれはそんな生易しい範疇だろうか。

答えは否だ。

「ひとつ聞きたいね。そこまでの推理はすごいよ。だけど、どうしてそこであれが『彼の家族』じゃなくて、『大竹幹』という確定ができるのかな?」

「それは、今ここにいることがなによりの証拠。――なぜ、お前は今日、ここに来た?」
「……さあ。これであたしが。ちょっと屋上に来たかったから。隠れていたのは、ドアが破壊されていたし、先客がいたことに驚いたから。と答えたら?」

「それは違う。お前の目的は、この一二三だ」

「根拠は?」

ただ立っているだけに見える彼女の足が、ほんの一センチ、アスファルトの上を滑った。

腕組は、解かない。