「そう。昨日、ヤツは六条賢一に『目』をつけられることを極端に回避した。なぜ? それは、ほんの少しであろうと、私生活を追尾されては正体がばれてしまうほど身近だから。それほど身近な人物となれば、限られてくる。彼の家族、あるいは」

「親しい関係にある友人」

「そう。つまり、お前」

カチン、という音がした。

大竹幹が。肩掛けリュックのベルトバックルを外したのだ。

顔を伏せた彼女は、ゆっくりと、ひとえを脱ぐかのように、リュックを下ろす。

「驚いたよ」

と、彼女はリュックから手を離した。アスファルトを教科書類の重みが叩く。

「ま、さ、か……あの発言と状況だけでそこまでの推理ができるなんてね。すごい想像力だよ。しかもきちんと筋が通ってる。そこまでの言及なら、冤罪だって着せられるね。あたしも推理は好きだよ? だけど、さすがに感服するね。必要素材を見過ごさない洞察力は、称賛するよ」

「褒め言葉は受け取る。けれど、その嘲りの眼差しは要らない」

「ふ、はは、さすがは昇華を続ける血筋だね。自尊心は強いみたい」