こちらの呼び掛けを待っていたのだろうか。

わざとらしく悠長な足取りで、その人影が落陽の世界へ踏み出てくる。

斜めの肩掛けリュックを背負った、女生徒。健康的、と一言それだけで表せそうな、引き締まった体つき。ひたいから分けられ、ストンと落ちるセミロングの髪は、以前から、覚えがある。

そう。六条賢一と一緒にいた、彼女。

「よく、あたしがいるのわかったね」

成績優秀者の開示で、その名前は見たことがある。

それでなくとも、つい昨日、ともに登校した。

母上の孤立無縁領域を真逆へ発展させた一点意思照射で、プレッシャーをかける。

「鬼の一族を舐めてもらうのは困る――大竹幹」

「は、は……そうなんだ。ふぅん」

が、そんなもの軽くいなし、ふざけたように肩をすくめた彼女は、

「で?」

直後、表情を『無』へ転換した。

その変化がなにか、知っている。

獣が狩りの姿勢へ入る間際に見せる、集中力だ。