鞄をすばやく準備した、いつものように斜めがけのリュックを背負う幹が、僕のもとへやって来る。

昨日や一昨日のように、一緒に帰れないことを伝えようすると、

「賢一、この二日、一二三さんと一緒なんだって?」

先手を、取られた。

幹はなぜか、やや剣呑とした表情だ。

なんだろう。

いくら幼馴染みとはいっても、僕らはあまり互いを異性として意識したことはない。

僕が一二三さんとどれだけいようと、嫉妬されたりするようなことはないはずなのに。

そんな、ちょっとした自惚れを抱く。

「あのさ賢一、お願いがあるんだけどね」

「なに?」

「一二三さんには近づかないでほしい」

「は?」

「もう一回言おうか?」

「いや、いいよ。ただ、なんでそんなこと急に?」

「都合が悪いからだよ」

そう言い切った幹は、なぜか、さっきまでとは裏腹に笑んでいた。

なにかを楽しんでいるような笑顔じゃない。

自分にとってマイナスになってしまうなにかを隠すための、仮面のような笑顔だ。

そうちょうど、あの純さんのような。