「またね、風間さん」

去っていく背中に、幹に倣って挨拶だけでもした僕は、

「!?」

刹那、振り返り、向けられた彼女の眼力に、ぞっとした。

「一二三」

「え――、えっ……?」

彼女の目が僕の目だけを見据え、唇がその音をつむぐ。

「ひふみ――そう呼んで」

彼女から放たれる、銃口を突きつけてくるような威圧感は、おぞましいほどに圧倒的で、

「ぁ、……う、うん」

僕は数瞬、彼女に見とれていたことさえ忘れ、頷かせられていた。

僕の脳内に無音の暴風を起こした彼女は、そうしてまた簡単に視線をはずし、きびすを返した。

ポン、と肩を叩かれ、幹に振り向く。彼女は、苦笑していた。

「あの目で言われると、逆らえないでしょ?」

「そう、だね」

綺麗な綺麗な――漆黒の双眸。

僕はその目に誘惑され、頷いた。幹の言う通り、あの目には逆らえない。

脅迫よりも強く、嘆願されるよりも必死な、暗示のような眼差し。

(あの目は、うん、そう……)

だから僕は、彼女に『目』をつけた。