けれど、一二三さんは、そんな僕をこそ嘲った。

「人間はほかの生物を食らう。けれど、人間はほかの生物に食われることに対し、あまりに否定的。食の摂理は本来、弱肉強食。弱いから肉になる。それを、人間は自分にだけは当てはめない。これはものすごいエゴだと思わない?」

一昨日のように、一二三さんの眼差しの、それはそれはまっすぐでまっすぐなことで。

「……一二三さんは……」

「なに」

僕は、急に怖くなった。

怖くなって、だけれど、逃げることはできないと、訊ねていた。

「一二三さんは、人を食べたことが……?」

最後の言葉まで、はっきりと口に出してしまえなかった、情けない僕を、一二三さんは笑う。

「そんなこと」

と、呆気なく。

「当然ある。一二三の一族は、人食い鬼だから」

「……そ、っか」

今の質問の単語を、そっくりそのまま変えたらどうなるのだろう。

六条賢一は、人を殺したことが……?

当然ある。

六条賢一は、邪眼持ちなのだから。

たったそれだけの事実を、だけど僕が、そこまで呆気なくさらりと言うことが、できるだろうか。