姉さんの目が、僕を見据える。

僕の、深い深い根底まで見透かし、過去をも掌握せんとするような、まあるい瞳が。

肩に食い込んでくる爪が、少し痛い。

それなのに僕には、姉さんを突き飛ばすだけの勇気が湧いてこない。

あたかも、彼女の視線に見惚れたように。

ああ――姉さんの目が僕を姉さん目が僕を姉さんの目が僕を姉さんの目が僕を姉さんの目が僕を姉さんの目が僕を姉さんの目が僕を姉さんの目が僕を――ああ。


「――いいよ、もう」

「え?」

ふ、と、姉さんが目からも手からも力を抜いた。

彼女から感じていた不思議な佇まいも同時に消えて、空間と姉さんがはっきりと、境界を確立する。

姉さんはそう、僕の目の前にいた。今朝のように、とても世話上手なお姉さんの顔で。

僕の、ちょっと苦手な顔で。

ス、と姉さんの片手が持ち上がる。

気がつけば、白くて細長い指の先に、赤いリボンでぶら下がった銀色の鈴がひとつ。

ちりんという音が、あまりにも清浄だった。