明らかな嫌味にしか聞こえないこれに、一二三さんは手にしているカップに目を落とした。

それは、今僕らの前に並んでいるカップと、同じもの。

「……父上のコーヒーは、よく、効く」

「…………そう」

僕に「上出来」と言った時のように、真輝さんの表情がほんの一瞬、満足げに緩んだ気がした。

その横で純さんが二人へ交互に、微笑みを向けている。

どうやら純さんは、この話し合いを始めるより先に、一二三さんへコーヒーを差し入れていたらしい。

それで一二三さんの機嫌も穏やかになるのだから……恐るべし、純さんのコーヒー効果だ。

ひょっとしてこの家で最強なのは、鬼なんていう存在よりも、ニコニコし続ける純さんなんじゃないかと、妙なことを考えた。

ご両親と向かい合う形、つまり僕の横に、

一二三さんは座った。

横から、また学校で感じたのと同じ、槍で突くかのような視線を感じる。

それに向き合い、直視できないのが、僕の弱さだ。

そして、風間一二三さんはこう言った。

「六条賢一には、一二三の補佐をしてもらう」