「真輝、だからそんな風に言っちゃダメだよ。僕のコーヒーは、そんな大それたものじゃないんだから。あ、賢一くん、嫌いだったら無理しなくていいよ」

そして僕は、

「……いえ、いただきます」

決して強制されるんじゃないんだと思いながら、カップを持ち上げた。

コーヒー特有の芳ばしい、そして微妙に焦げたような匂いが近づく。

ふちはわずかに透き通って日蝕のような紅に見え、中央はどこまでも深い、揺らめく漆黒。

つるりとしているみなもが、難しい顔をした僕をセピア調に映していた。

コーヒーは、嫌いでも好きでもない。

ゆっくり一口、飲んだ。

コーヒーについての素養のない僕は、飲んだこれが美味しいのか、美味しくないのか、仮に美味しいとして、どこがどのように美味しいのかとか、そんなものは、わからなかった。

ただ、これはコーヒーだと思ったし、コーヒー以外のなにものでもないと思った。

飲むときと同じくらいゆっくりと、息を吐き出す。

「――――どう?」

と、真輝さんに訊ねられて、僕は正直に答えた。