「‥いいんだよ莉奈」

心の中で桜に話し掛けていた莉奈に、蒼の声が入ってきた。

「え‥?ごめん何?」

「友達の所に‥莉奈の世界に帰ってもいいんだよ」

優しい笑顔で蒼は言った。

蒼と一緒にいたい‥
でも‥私はいつか帰らなきゃいけない

莉奈の考えている事が伝わったのか、蒼は走り続ける馬車の扉を開けた。

「本当は初めから帰る方法も分かっていた‥ただ‥離れたくなかった。」

莉奈の手を握り、蒼は泣いた。

「君に会えて幸せだった。神がきっと‥君と逢わせてくれたんだ。」

莉奈も、そう思った。

蒼と出会うまで毎日が同じ繰り返し、みんな同じ格好で同じ話題‥

光の事が好きだと思っていた。
でも‥それは恋じゃなかったんだ。
ただカッコイイ彼氏が欲しかっただけ。
それを桜に取られたと思い込み、親友を信じる前に疑った‥私は間違っていた。

ただ一つだけ分かったんだ。
私が初めて恋したのは‥


蒼‥あなただよ。



開け放たれた馬車の扉。
外は晴れ、月が辺りを照らす。

蒼の手がそっと莉奈の背中に触れ、莉奈はギュッと指輪をはめた手に力を込めた。

「ありがとう‥莉奈」

泣いている蒼の顔が、少しだけ見えた気がした。