数日後、すっかり忘れていた出来事に進展があった。
階段の彼が早紀の部署に顔を出したのだ。
「なぁ、本社の管理部って行ったことあるか?」
早紀の向かい、後輩の須藤に彼が気やすく話し掛ける。
「管理部?あるわけねぇじゃん。何かあんの?」
「報告書、1枚修正しろって」
書類をひらひらと見せて、げんなりとしている。
やりとりからすると、二人は同期のようだ。
「直接持ってかなきゃ期限間に合わないって言われたんだけど、あのビル入ったこともないから絶対迷う自信ある」
「……行ったことない俺に言われても」
見兼ねて、早紀は恐る恐る挙手をした。
「あの……私でよければ案内しましょうか?」
「え!行ったことありますか!?」
「うん、ちょっと自信ないけど……多分大丈夫!」
両手で拳を握り、早紀はにっこりと微笑むと先頭切って歩きだした。
それを見た須藤が
「山本さんの『たぶん大丈夫』は結構あてにならないんだけどな」
と呟いたのも知らずに。