「まぁ、どんなことがあっても破棄は認めなかったけど。良かった」

嬉しそうにはにかんで笑う顔に、胸がキュンと疼く。
この笑顔が私だけのものならいいのに……。
店での、あの女性に向ける顔を思い出し、胸がギュっと痛む。
私の胸はこのところ、毎日忙しい。

「梓が急に帰ろうとしたのは、やっぱり今日の講習会が原因?」

「っ……」

そうだよっ。でもヤキモチ焼いたとは言いにくい。

「雅哉から何か聞いたとか?」

「それは……」

「こっちは客商売だからね。お願いされたら無碍には断れない。それに、多くの人にカクテルの良さや美味しさを知ってもらいたいしね」

「分かってる」

でも素直に納得出来ない。
彼女の挑発的な行為を嫌そうな顔ひとつしないで、楽しそうにしている遼さんを見ていたら、お客様以上の気持ちがあるんじゃないの? と疑ってしまった。

「その顔は分かってないね? 何が不満? 言いたいことがあるなら、言ってみてよ」

言えたら、もっと早くに言ってるよっ。
言えないから、言ったって無駄だと思ってるから言えないんだよっ!
だって私は遼さんの……

「俺の彼女……でしょ? 梓は」

はっと目を見開く。
彼女だから言えって? 本当の彼女じゃないのに言ってもいいって言うの?
そこまで言うなら、言ってやろうじゃないのっ!! あとで後悔しても知らないんだからっ!!

背筋を伸ばし遼さんの顔を見据えると、ふぅ~と大きく息を吐いた。