「んっ……」

唇を離そうと腕を上げたくても、押さえ込まれてしまってピクリとも動かせない。
その間にも深く重なっていく唇。
土曜日に遼さんとした、唇を合わせるだけのキスとは明らかに違うキスに、気持ちが翻弄される。

ズルい……。

私が恋は出来ないと、契約破棄と言っているのに、このキスは反則だ。
目の前には遼さんの顔がある。甘さを含んだ瞳が私を見つめている。重なっていた唇が離れると耳元に移動し、低い声で囁く。

「契約破棄を破棄する」

その魅惑的な声に、身体が甘く疼く。
唇を戻し再び重なりあうと、息を継ぐために僅かに開けた隙間から、遼さんの舌が入り込んできた。それが私の舌を探り当てると、容赦なく絡めだす。4年間忘れていた感覚に頭の中が真っ白になってしまい、身体が震えた。

「梓、分かったと言って」

ほんの少し唇を触れ合わせたまま、彼が言う。
その時ふと、枝里と真規子の顔が頭に浮かんだ。
彼女たちに励ましてもらった言葉、頑張るって言った自分を思い出す。
そうだよね。自分から動いてみるって言ったんだ。こんなことぐらいで負けてちゃダメだよね。
そんなことを考えてる間も、遼さんの甘く優しい唇は何度も私に触れ、再度割入ってきた舌は口腔内を彷徨った。

どのくらいの時間、そうしていたのだろう……。
気づくと遼さんの唇は離れていて、瞳がまっすぐ私に向けられていた。
ゆっくり身体を起こされると、遼さんの全身に包み込まれる。