まるでストップモーションように、ソファーに倒れていく。そしてそのまま、遼さんに組み敷かれてしまった。

「何で泣いてる?」

「わか……らない……」

「キス、して欲しかった?」

本当に分からないから、答えようがない。

店で見た光景。その時、自分の中に沸き起こった気持ち。
強く握られ、抱きかかえられた腕と身体。いつもより低い声色に真剣な眼差し。
かと思えば、からかうように冗談を言う。
私はその度に体中を掻き乱されて、頭の中がぐちゃぐちゃだ。

これが“おためしの恋愛”じゃなかったら、こんなに苦しい思いをしなくてよかった?
遼さんがその提案をしていなかったら、恋すら始まってなかったなかっただろうし……。

そしてここに、ひとつの答えが導き出された。

-----やっぱり恋愛できない-----

それが分かると、気持ちが落ち着きを取り戻し始める。
自然と涙が止まり、穏やかになっていく目が遼さんを見つめた。
私の変化を感じた遼さんが、眉を上げる。

「何、考えてる?」

「ねぇ遼さん。まだ一ヶ月経ってないけど、あの契約、破棄してもいい?」

遼さんの目が揺れる。
でも、それも一瞬……。
それまでよりも力強い眼差しに変える。その目には、今決めたばかりの自分の意志をも揺らがされてしまうほどの威力があった。

「遼さ……」

目ばかりに気を取られていた私は、キスされることを避けることが出来なかった。