苦笑しながら雅哉くんを見ても、離れてくれそうな気配なし。
すると、しびれを切らした遼さんが近づき、雅哉くんを無理矢理引っ剥がした。

「いいかげんにしろ。梓も梓だ」

私まで怒られたじゃない……。
唇を尖らし不服顔をすると、雅哉くんがいるというのに、とんでもないことを言い出す。

「何、唇突き出してるの? 今すぐキスして欲しいって?」

「お、俺、店戻りまーすっ!!」

不穏な空気を察知してか、雅哉くんがマッハの如く姿を消した。
ひとり残されてしまった私……。

な、なんて、解説してる場合じゃななかったっ!!

遼さんと目を合わさないように俯いていると、いきなり顎を掴まれ上を向かされてしまう。
少しづつ近寄ってくる怖い顔に怯え、プルプルと首を振っていると……。

「プッ!! 俺が無理矢理キスすると思った? そんな顔してる時の梓にキスなんてしないって」

頭に手を奥と、ポンポンと撫でられた。

何で笑ってられるの? 本当に怖かったんだからっ!!

そう言いたいのに、言葉が出てこない。
代わりに、瞳から大粒の涙が溢れ出しだ。
これが、怖かったからのホッとした涙なのか、それとも別の意味の涙なのか……。
自分でも計り知れないでいると、急に視界がぐらりと揺れた。