「梓さん、夕飯持って来たよ」

ドアを開けて、ひょっこり顔を出したのは雅哉くんだった。

「ごめんね、わざわざ持ってきてもらっちゃって」

「いいよ。だって梓さん、先輩に監禁されちゃってるんでしょ?」

「監禁って……。勝手に帰るなって言われたけど」

言い方がちょっと脅迫めいていたから、監禁って言えばそうかもしれない。
いや、自由に動けるけどここから出て行くなって言うんだから監禁じゃなくて軟禁?
そんなどうでもいいことを考えて、ひとりで笑ってしまう。

「梓さんが帰っちゃった時は心配したけど、もう大丈夫みたいだね。寂しくなったら、いつでも言って。俺、慰めてあげるから」

「雅哉くん、可愛い彼女いるのに、そんな事言ってもいいの?」

「梓さんなら、いいのっ」

可愛い笑顔でそばに来た雅哉くんの頭を、軽く小突く。
テヘッと舌出して笑う顔が、また何とも女心をくすぐる。
私にとっても、可愛い弟みたいなもんだ。
ソファーの私の横に座り込んだ雅哉くんと、しばらく雑談をして笑い合っていたら、入り口のドアがコンコンコンと3回音をたてた。
二人同時に振り向くと、面白くなさそうな顔をした遼さんが立っていた。

「雅哉、いつまでそこにいるつもりだ。さっさと店に戻れっ」

「だって、梓さんひとりにしたら可哀想だと思ってさ」

そう言って、まるで子供が母親に甘えるようにしがみ付くと「ねっ?」と私に同意を求める。
いやいや、私、関係ないし……。