「戻るよ……」

私の顔も見ずぼそっと言うと、腕が痛いほど強い力で店までの道を引っ張られた。
ハッキリは見えないけれど、遼さんの顔は怒っているようだった。
私が勝手に帰ったから? それとも腕を振り払ったから?
その理由が分からず腕の痛さに耐えながら考えていると、店の入口を通り越して裏の通用口から中へと入った。
何で裏なの? 
少し抵抗して身体に力を入れるも、遼さんの力のほうが上なわけで……。
はぁ~っと大きなため息をつくと、私を抱きかかえてしまった。

「ちょ、ちょ、ちょっと遼さんっ!? 何で、お姫様抱っこ……」

「黙ってて」

それだけ言うと、私を抱いたまま階段を上がり始める。
さっきまでと違い、抱く腕は優しく怒りは感じられなかった。そっと顔を覗き見ると、眉間にあった深いシワも無くなっている。
少し安心すると、身体の緊張を解いた。

3階にある遼さんの部屋に着くと、ベッドの上に下ろされる。
いきなりベッドって……。
解いていた緊張を体中に張り巡らせると、壁際まで後ずさった。

「何にもしないよ。まったく、何考えてんだか……。店終わるまで、ここで待ってて。いい? 勝手に帰らないようにっ」

そう念押しすると、私の返事も聞かないで部屋を出ていってしまった。