目を伏せ正面を向いて座り直すと、カウンターに戻ってきていた雅哉くんに声をかける。

「ビール一杯っ。早くしてっ!!」

「は、はい……」

私がこの店でビールを頼むのは初めてだし、意味もなく怒りをぶつけられてしまった雅哉くんは驚きを隠せないでいた。
雅哉くんに当たってしまうなんて……。
大人気ないったらありゃしない。お客さん相手のことにヤキモチを焼くなんて、自分に呆れてしまう。
渡されたビールを一気に飲み干すと、心配そうな雅哉くんの顔が見えた。

「梓さん、ごめんね」

彼は何にも悪くない。悪くないのに、申し訳なさそうにそう言ってくれる姿を見て、自分に嫌気がさす。

「何で雅哉くんが謝るの。悪いのは私。これ以上ここにいると、もっと雅哉くんに迷惑かけそうだし今日は帰るわ。本当に、ごめんね」

バッグを掴み席を立つと、私と雅哉くんのやり取りに何かを感じたのか、遼さんがこっちに歩いてきていた。

今は何も話したくない……。

慌てて店を出て走りだす。しかし、さっき一気飲みしたビールが効いているのか、足元が覚束ない。スピードが出ないまま歩くように走っていると、あっという間に腕を取られてしまう。

「梓っ!」

振り向かなくても分かる声に、掴まれた腕を振り払う。

「離してっ!!」

喧嘩口調になってしまうのが分かってたから、店を出たのに……。
口を開けば嫌なことを言ってしまいそうで黙っていると、振り払った腕をもう一度掴まれた。