しかし、枝里と真規子の前で見せた決意も、三日後の金曜日には呆気なく揺らいでしまうことなってしまう。

いつものように仕事が終わって店に行くと、カウンターにあるはずの遼さんの姿が見当たらない。
すると、店の奥ばった場所にあるソファースペースから賑やかな声が聞こえてきた。その声に振り返ると、女性客5人に囲まれた遼さんが何やら楽しそうに説明していた。
遼さんの隣の場所陣取り、満面の笑みで寄り添っているのは、よく見る女性客だった。
頑張ると決めたのに、もう負けそうな自分が顔を出し始めていた。

「今日は常連さんに頼まれて、カクテルの講習会? みたいのをしてるんだよ」

いつの間にか雅哉くんがそばに来ていて、私に耳打ちした。
クスクスと笑いながら、私をいつもの席まで案内する彼を横目で睨む。

「梓さん、そんな顔しないの。可愛い顔が台無しだよ」

雅哉くんにかかると、年上の私も形無しだ。
怒る気も失せると、“クランベリー・クーラー”を頼む。
アマレットの香ばしさに、クランベリーとオレンジ、2種類のフルーツの甘酸っぱさが絶妙にマッチした甘口のカクテル。アルコール度数も高くなく、その鮮やかな色あいの美しさから、女性に人気の一杯だ。

「僕が作っても……いい?」

最近遼さんから、カクテルの作り方を少しづつ教えてもらっている雅哉くんが、お伺いを立ててきた。

「もちろんっ」

そう返事をすると、嬉しそうに微笑んで準備を始めた。