「苦しくないか?」

「うん、もう大丈夫。ごめんね、びっくりさせて……」

「本当だよ。いったい何が起こったんだ?」

「う~ん、私にもよく分からないんだけど……」

遼さんが、私の身体をゆっくり起こす。

「ココアが……」

「ココアが?」

「苦かったの……」

で? と言いたそうな顔で首を傾げる遼さんの姿があまりにも滑稽で、笑いが漏れてしまった。

「心配してるのに笑うなんて、酷くないか?」

「ごめん。でも本当にもう大丈夫だから」

本当の彼女でもない女に「不安なの」と言われたって、遼さんが困るだけだよね。
どうしようもないその不安を胸の奥にぎゅっとしまい込むと、普段の自分で遼さんに話しかけた。

「ココア、もう一杯いい?」

「あ、あぁ、苦いって言ってたもんな。今度はミルクで淹れてあげるよ」

ちょっと意味が違うんだけど……。
でもその気遣いが、今は嬉しい。