「言い忘れてたんだけど、」

『なんだ』

「明日ゴミの日だから出」

がちゃんっ。

つー。つー。つー。

「あー……」

切られた。一瞬の躊躇も慈悲も容赦もない、天晴れな切り方だった。これは、絶対出しておいてくれないだろう……。

ケータイをたたむ。通話時間は十分。そのうち七分ぐらいは文句を言われていた。

もう苦笑しか出ないから、苦笑しか出さない。

僕ひとりだけのオフィス。深夜。残業するように言われたのは、真輝ちゃんの食べ残し事件――ああ違う、世間で言うところの『猟奇殺人』の調書をまとめることだ。

まだ事件が明るみになって二日目、あまり挙がってきている情報は多くないことが救いだ。

外を見ようと思ったけれど、室内の光源が窓をところどころ真っ白くしてしまって、外なんか見えやしない。

完璧に、黒い鏡だ。いったん家に帰ってスーツを着替えた僕が、微妙な困り顔でデスクの前に座っている。窓の中のメガネまで、光の反射で白くなっていた。