その同じ写真を
村嶋 美登は例の如く
器用にペンをくるくると回しながら
見ていた

考え事をするときの美登の癖だ

その考えを断ち切るかの様に
声が掛かる

「相変わらず、無愛想な顔ね
杜は」

かの子だった

「ああ、相変わらずだ
ところで、姉さん
体はどうなんだよ
検診の帰りにうちに寄ってること
滝川さん知ってるの?」

かの子は現在、妊娠7ヶ月に入った所だった
近頃ではかなりお腹も目立ってきていた

「もちろん、知ってるわよ
さっき、電話かかってきたもの
あの人、医者の癖に
過剰に心配しすぎなんだから
もっと、クールな人だと思っていたのにね」

「無理もないよ
姉さん、体丈夫じゃ無かったんだし
それに、姉さんを産んだお母さんだって……
うちの親父もお袋に気兼ねして
あからさまには言わないけど
相当、心配してるよ
姉さんとお腹の赤ちゃんの事」

「大丈夫ですって
ちゃんと、産科の医者が
太鼓判押してくれてるんですもの
いつまでも弱かった頃の
私じゃないんですからね
まぁ、だけど
ありがとうね」



その後、かの子は
慌てて迎えに来た滝川と帰っていった

それぞれが
それぞれの新しい道を歩み始めていた

相変わらず、手元で器用にくるくると
ペンを回す美登

不意に手元が狂い
滅多に落とすことなどないのに
ペンが床に落ちる

誰も居なくなった美登の事務所に
やたらとペンの落ちる音が響いた

ゆっくりと
机の下に屈む美登

自分は一体、何をやっているのだろう
と言う思いが頭を過る

こうしてみんなが
前へと進みだしたと言うのに

未だ、自分は足踏み状態ではないか
いつになったら
自分はこの闇のような状態から
抜け出す事が出来るのだろうか

いつになったらーーーー

美登は誰知れず口にする