杜は美雨を田澤が、用意してくれた
アトリエへと連れてきていた

「す、すごい……ですね」

美雨はアトリエの窓から見える
広大な景色に圧倒されていた

「ああ、あのじいさんは
兎に角、スケールが大きいよ
今回の事にしたって
本当に助かった、感謝してるんだ」

その後も杜は田澤との出会いなど
これまで話していなかったことを
美雨に詳しく聞かせてやった

「そうだったんですかぁ
そんな古くからのお付き合いだったなんて
知りませんでした
だけど、嬉しいです
杜さんの才能を分かってくれる人がいて」

自分の事のように喜ぶ美雨の姿を
見ていると、杜は自然と顔がほころんだ

「なあ、あんたに見せたいものがある」

そう言いながら杜は
賞をとった作品よりは小さめのサイズの
キャンパスを持ってきて美雨に見せた

「あっ………………」

そこにはお天気雨の中
佇む一人の女性が描かれていた

女性の美しい黒髪に
雨と日の光があたり
キラキラと反射していて
とても幻想的で希望に満ち溢れた絵だった

「タイトル、美しい雨
美雨、あんただよ」

そこに描かれている
黒髪の美しい女性は紛れもなく
美雨だった

お天気雨に濡れながら
穏やかな笑顔を携えていた

美雨は嬉しさを言葉に表したいのに
上手く出せず
その代わり
一筋の涙を溢した

杜は絵をイーゼルに立て掛けると
美雨の側にゆき
親指でそっと、涙を拭ってやった

「も、……り、さん……」

やっとの事で杜の名前を呼ぶ美雨を
杜はそっと、抱き寄せた

「この絵はあんたのためだけに
描いたんだ
あんたの事だけを考えながら描いた
不思議とさ
この絵を描いてるとき、とても
幸せな時間が流れていた
こんなにも穏やかな気持ちで描いた事は
これまでになかったよ
それで、俺は改めて思ったんだーーー」

杜は体から美雨を少し離すと
美雨の頬を両手で包み込み
告げた