「それじゃあ、買い出しに行ってきます」

美雨は神村に言うと雑貨屋の表に出た
するとーーーー

「ただいま、美雨」

ずっと、呼んで欲しかった名前を
今、漸く聞くことができた

「杜……さん?」

店の前に杜が立っていた
テレビや雑誌では
ここのところスーツを身に纏っていた杜が
ジーンズに長袖シャツという
ラフな姿で目の前に立っていた

「幽霊でも見るかのような目だな」

「そ、そんなこと……だけど」

「確かめろよ
幽霊じゃないってことを」

そう言うと杜は両手を美雨に向けて
広げた

「もぉ……」

美雨は一歩一歩と杜に近づいた
そして、
後少しのところで
杜に手を取られ
あっという間に杜の胸に収まった

久しぶりに嗅ぐ杜の香りに包まれて
美雨は心から安堵する

美雨は自分をつくづく
単純な女だと思った

あれほどまでに杜に対して
諦めのような感情を抱いていたというのに

こうして、ただ、抱きしめられるだけで
全てを許せてしまう自分を
呆れたように笑った














「んんんんんんんっーーーー
そのぉ~、それはいつまで
続けるつもり?
せめて、店の入り口からずれてくれよ
でないと、お客さんが入れないんだけど……」

頭を掻きながら、神村が言った

「あっ、やだ、すいません」

美雨は慌てて杜から離れようとするのに
相変わらず杜は美雨を自分の腕の中に
閉じ込めていた

そして、神村に向かって

「お久しぶりです、オーナー
悪いんだけど、こいつ
今日は早退ってことで……」

悪びれる風でもなく話す杜に
神村は満面の笑顔で親指を立てると

「どうぞどうぞ、
僕は全然、構わないよ
なんなら、このままさらってってくれて
構わないよ」

「オーナーっ!」

杜の腕の中で真っ赤になる美雨
そして杜は珍しく笑うと

「ああ、そうさせてもらうよ」

と、返事をした