別荘で杜を下ろすと滝川は
「また、後で来ます」
と、だけ言い、車を走らせた
杜はゆっくりと玄関までのアプローチを進んだ
すぐ脇にある
シンボルツリーのオリーブは
とても青々としていた
そして、
ドアをノックする
奥から聞き覚えのある声がする
声はドアへと近づき
そして
開くと
「待ってたわ、杜」
かの子が出迎えた
「どうぞ」
と、かの子はリビングのソファーに
座る杜の前にハーブティを出し
そして
真向かいに腰を下ろした
「ローズヒップか」
カップに口をつけ杜が言った
「ええ、覚えてた?」
「ああ、昔、離れにいくと
よく出されたっけ」
「そうよ、
杜、酸っぱくて旨くねぇって言いながらも
毎回飲んでいたわよね」
「そうだっけか?」
何て事ない会話が一瞬で二人を
過去の空間へと導く
互いに遠い日を思い返すように
窓の外に広がる信州の山々に目を向ける
穏やかな時間が流れ
かつての激しい感情が、嘘のように
薄れて行くのがわかる
「杜」
「なに?」
「私もそれほどバカじゃないわ
杜がなんのために今日、わざわざここへ
来たのか、ちゃんと分かってる
それに私、散々、好き勝手やって来て
みんなにも沢山、迷惑掛けた
一ノ瀬の家にも
村嶋の家にも……
そして美雨さんにも」
「ああ……」
杜はまた一口、ハーブティを飲みながら
相づちを打つ
「だから、
最後くらい、私に姉としての
プライドを保たせて欲しいの」
「ああ……」
「杜、私たちもう終わりにしましょう」
かの子の言葉に杜はやはり
「ああ……」
とだけ返事した
「クスクス……変わらない」
「何だよ」
「昔から、私が真面目な話しをすると
いつだってそう
ああ……って
ちゃんと、聞いてんの?って何度も叱ったよね」
「ああ……あっ」
思わずまた出た言葉に
杜も苦笑いをする
「本当はずいぶん前に分かってた
私たちの愛は本物じゃないって
ただ、幼さ故に愛がわからなくて
執着していただけなんだってこと」
「そうか」
「桂一郎のこともそうなの
途中から彼の愛が本物であると
薄々気づいてた
だけど、それに気づくと杜との事が
全て無くなってしまうようで
嫌だったの
でもね、薬を飲ませたときに
気づいた
ああ、私、この人を失いたくないんだって」
「良かったな、
薬、入れ換えてあったったそうだな
滝川さんに聞いたよ」
「そうね
やはり、彼は有能な医者よ
そして大切なパートナーだわ」
「そっか……」
「あなたは?
美雨さんとは上手くやっていけそうなの?」
「ああ、大丈夫だ
ちゃんと、考えてる」
「そうね
私がとやかく言うことではないわね」
「いや、ありがとう」
「絵は?
描いてるんでしょ?」
「今度、作品展に出すつもり」
「そう、楽しみにしてるわ
私、あなたの絵、好きだから」
「ありがとう」
杜自身、かの子と何もなかったかのように
今、こうして話していることが不思議でならなかった、と同時に心地よくもあった
それは、やはり共に家族として過ごしていた
時間がそうさせているのかもと
杜は思っていた
「後、姉として言うわね一言」
「なに?」
「一ノ瀬の家に一度帰りなさい
父も兄もそしてーーー母も
とても心配してるわ」
「母さんも?」
「そう、誰よりも心配している
信じられないでしょうけど」
思いもよらないかの子の言葉に
杜はただ、驚いた
「また、後で来ます」
と、だけ言い、車を走らせた
杜はゆっくりと玄関までのアプローチを進んだ
すぐ脇にある
シンボルツリーのオリーブは
とても青々としていた
そして、
ドアをノックする
奥から聞き覚えのある声がする
声はドアへと近づき
そして
開くと
「待ってたわ、杜」
かの子が出迎えた
「どうぞ」
と、かの子はリビングのソファーに
座る杜の前にハーブティを出し
そして
真向かいに腰を下ろした
「ローズヒップか」
カップに口をつけ杜が言った
「ええ、覚えてた?」
「ああ、昔、離れにいくと
よく出されたっけ」
「そうよ、
杜、酸っぱくて旨くねぇって言いながらも
毎回飲んでいたわよね」
「そうだっけか?」
何て事ない会話が一瞬で二人を
過去の空間へと導く
互いに遠い日を思い返すように
窓の外に広がる信州の山々に目を向ける
穏やかな時間が流れ
かつての激しい感情が、嘘のように
薄れて行くのがわかる
「杜」
「なに?」
「私もそれほどバカじゃないわ
杜がなんのために今日、わざわざここへ
来たのか、ちゃんと分かってる
それに私、散々、好き勝手やって来て
みんなにも沢山、迷惑掛けた
一ノ瀬の家にも
村嶋の家にも……
そして美雨さんにも」
「ああ……」
杜はまた一口、ハーブティを飲みながら
相づちを打つ
「だから、
最後くらい、私に姉としての
プライドを保たせて欲しいの」
「ああ……」
「杜、私たちもう終わりにしましょう」
かの子の言葉に杜はやはり
「ああ……」
とだけ返事した
「クスクス……変わらない」
「何だよ」
「昔から、私が真面目な話しをすると
いつだってそう
ああ……って
ちゃんと、聞いてんの?って何度も叱ったよね」
「ああ……あっ」
思わずまた出た言葉に
杜も苦笑いをする
「本当はずいぶん前に分かってた
私たちの愛は本物じゃないって
ただ、幼さ故に愛がわからなくて
執着していただけなんだってこと」
「そうか」
「桂一郎のこともそうなの
途中から彼の愛が本物であると
薄々気づいてた
だけど、それに気づくと杜との事が
全て無くなってしまうようで
嫌だったの
でもね、薬を飲ませたときに
気づいた
ああ、私、この人を失いたくないんだって」
「良かったな、
薬、入れ換えてあったったそうだな
滝川さんに聞いたよ」
「そうね
やはり、彼は有能な医者よ
そして大切なパートナーだわ」
「そっか……」
「あなたは?
美雨さんとは上手くやっていけそうなの?」
「ああ、大丈夫だ
ちゃんと、考えてる」
「そうね
私がとやかく言うことではないわね」
「いや、ありがとう」
「絵は?
描いてるんでしょ?」
「今度、作品展に出すつもり」
「そう、楽しみにしてるわ
私、あなたの絵、好きだから」
「ありがとう」
杜自身、かの子と何もなかったかのように
今、こうして話していることが不思議でならなかった、と同時に心地よくもあった
それは、やはり共に家族として過ごしていた
時間がそうさせているのかもと
杜は思っていた
「後、姉として言うわね一言」
「なに?」
「一ノ瀬の家に一度帰りなさい
父も兄もそしてーーー母も
とても心配してるわ」
「母さんも?」
「そう、誰よりも心配している
信じられないでしょうけど」
思いもよらないかの子の言葉に
杜はただ、驚いた