かつての杜は心からそう思っていた
そう、信じていた

叶わぬ思いとわかっていても
その思いを止めることは出来なかった

時が経っても
むしろ
かの子への思いはつのるばかりで
一層、何もかもを壊してでも
かの子への愛を貫こうとすら
思った事もあった

その愛はとても
激しく
情熱的で
そして
破滅的だった

かの子を思えば思うほど
深い闇が体にまとわりついてくるような
そんな思いにいつも支配されていた

苦しく悩むものの
それが真の愛だと思っていた
信じていた

しかし、
美雨と出会い、杜は知ることになる

静かな愛の形を
穏やかな愛を
美雨を通して感じるようになった

自分の奥深くに眠っていた
真の愛を呼び覚ます美雨を

闇から我が身を救い出してくれる
一筋の光の存在を
杜は知ったのだ

それまでかの子への破滅的な
愛を愛と信じていた杜は
戸惑いながらも
美雨に対して芽生え始めた気持ちを
認めるようになった
と、同時に
かの子への思いはいつしか
過去の物へと変わっていった

後に、杜とかの子の間に
何ら障害となるものが
ないと分かったとしても
その思いが元へと戻ることは
決してなかった

杜は静かに言った




「かの子への愛は永遠だ
ずっとそう、思ってた」

「だったら君がかの子の側に……」

杜は首を横に振ると

「しかし、それは違ってた
ただ、自分の思いをぶつけるばかりで
思えば、その愛にしがみついていただけだった
真の愛を見ようとしなかったんだ
俺だけじゃなく、かの子もね」

「かの子も……?」

「ああ、俺たちは愛を知るには
あまりにも幼かったんだ
恐らく
かの子も気づき始めている
俺への愛は真の愛ではなく
ただの、執着心に過ぎないことを
もしかしたら、
真の愛の存在をーーー
あんたから、貰ってることに
本当は気付いてるんじゃないか、かの子は」

「真の愛……」

滝川は複雑な面持ちで杜を見た

「あんたの愛が本物だとしたら
かの子を深い闇から救ってやれるのは
あんたしかいねぇよ

俺は今日、かの子との事を
終わらせようと思い、ここへ来た
かの子も本当はどこかでそれを
望んでいると思う

俺には分かるんだ
血は繋がらないとは言え
俺たちはずっと、姉弟としていた訳だから
ずっと、姉だと思ってた訳だから……

だから、弟としてあんたに頼む
かの子に対して心からそう思うんだったら
俺が美雨に救われたように
かの子を引き上げてやってくれよ
深い闇の底から……
救ってやって欲しい」