「時間も限られてますから
単刀直入にお聞きします
かの子の事、どう思ってます?」

視線を合わせることはなく
ただ、ガラスの向こうの池に目をやりながら
話す滝川

「あんたはーーー
どう思ってるんだよ
ーーーーーーーかの子の事」

「質問に質問で返すとは
僕が記憶している学生の頃のあなたと今のあなたでは随分と変わっているのかもしれないな」

と、前置きした上で

「かの子といれば、財力も権力も得られる
僕は普通のサラリーマンの家庭で育ってますから。医者だってたまたま、勉強が得意で
まぁ、親に楽させてやれるかなって
事でなっただけです
だから、外科の道になんか死んでも進むかって、内科医になった訳です
どういう、巡り合わせか
かの子の主治医になれて、このチャンス
逃す手はないと必死でしたよ
かの子を取り込むのにね」

悪びれる様子もなく話す滝川に

「お前、本当にそれだけなのかよ
かの子の言うように
財力と権力のためだけに近づいたのか?
どうなんだよっ」

平日で人のいない館内に
杜の荒々しい声が響いた

「これは、驚いた
杜さんでも、そんな風に
感情を露にすることあるんですね

ええ、そうですよ
その通りです
何が悪いんです
誰だって思うでしょ
そこらのOLだって玉の輿とか
よく騒ぐじゃないですか
所謂、逆玉?ってやつですよ」

杜は苛立ちを言葉にして
吐くかわりに下唇をクッと噛んだ

「だけどねーーー」

と、杜の方を全く見ることもなく
滝川は続けた

「だけどね
人ってのは、得れば得るほど
欲が出てくるもので、気づいたときには
全てを欲しくなってたんですよね
全てをね」

「す、べて……とは?」

「杜さん、物事単純に考えましょうよ
全てと言えば全てですよ
何もかも、かの子の持っているもの
全部が欲しくなった
かの子の身も心も全部手に入れたくなった…」

「心も……」

相変わらず中庭にある
池の表面は揺れていた

「ええ、そうです
私は知らず知らずのうちに
かの子に惹かれていた
彼女はとても魅力的な人だ
杜さんだって、よくご存知でしょう?
僕は、とても自然に
かの子に惹かれた
そして、
嫌がるかの子の身体を無理やり奪った
無理やりね
僕は浅はかな男だ
なのに……
そうまでしても
心だけは未だ、手に入っていない
どうしたって、かの子の目には
あなたしか映らないようだ
あなたの影をずっと追い求めてる
今も……」

滝川の告白に杜は
何と、答えていいやら
わかりかねていた

「杜さん、かの子の元には
戻ってやれないんですか?」

漸く、杜の方へ体を向けると
滝川はそう言った