「でっ、でも悪い話じゃないでしょっ!
由宇ちゃんもバイトしたがってたし….それに本当にすごくいい環境みたいだし!

ね、由宇ちゃん、やってみない?」

じっとりとお父さんを睨む私を見兼ねてお母さんが口を挟んできた。

やってみない?って…

「どうせもう話決まってるんでしょ」

う、と言葉に詰まるお母さんに、思わず溜息が漏れる。


「わかった、やる」


本当に!?と喜ぶ両親に、ただし、と条件を突きつけた。

「夏休みの間だけだから。それ以上はやらないから!」




かくして。
私の波乱万丈のメイド生活は幕を開けたのである。


「それでは原田さん、こちらへ」

瀬戸さんのその声でハッと我に帰った。

「は、はい!」

あの馬鹿でかい門からお屋敷の建物まではかなり距離がある。

その道中にはありとあらゆる花や木が植えられており、まるで植物園みたいだ。

キョロキョロと周りを見渡しながら歩く私に瀬戸さんはまた柔らかく微笑んだ。

「普段この白木邸の御主人一家がこの道を通られる時は車でお送りするのですよ」

……?

もう別次元の話しすぎて頭がついていかない。

どこまでビップなら気が済むんだろう。

ちなみに白木、とはこのお屋敷の持ち主の名前。

つまりあの男の子の名前。

そこまで考えて、ふと頭に浮かぶのは。


……ここで働くってことは、あの子にまた会えるってこと?