「ちょっと待てよ。そっから絶対動くなよ。急いで行くから」
「颯、家じゃないの?」
「違う。だから、絶対動くなよ。すぐ行くから」
プツンと一方的に切れた電話。
電話を鞄の中に閉まった後、ソワソワしながら辺りを見渡した。
時間も時間だ。
街灯が照らされているけど、正直なんだか居心地が悪い。
遠くのほうで切れかけのチカチカした街灯も何だか怖く感じてしまった。
…颯、早く。
刻々と過ぎて行く時間のなか、心の中でそう叫んでいた。
こう待ってると、やっぱり時間ってもんが気になって、何度も何度も携帯を取り出し時間を見てしまう。
だけど、見る度見る度、全然進んでなくて、まだあれから5分しか経っていない。
何処からくるのかなんて分んないけど、辺りを見渡しながら颯を待った。
と、すると何処からともなく聞こえて来た原付の音。
颯かどうかなんて分かんないのに、その原付を探してた。
「美鈴!」
そう聞こえて、近づいて来る原付。
やっぱり、颯だった。と、同時に微かな笑みが漏れる。
「…颯」
ピタっとあたしの隣で止まった原付。
「何してんだよ、お前」
辺りを見渡しながら顔を顰めた颯はメットを取り、備え付けてある鏡に掛けた。