「と、とにかく!!何であたしが見知らぬアンタに着いて行かないと行けないのですか?」

「だってお前しかいねぇし」

「いやいや授業終わったら誘う人いっぱい居るでしょ?」

「それまで待てねぇから」

「ちょ、ちょっと!!」


グイグイ腕を引っ張り足を進めて行くこの男。

まだ名前すら知んないし、顔も初めて見る顔。


顔の印象は?って言うと、“端正”って言葉がピッタリな男。

だけど、これっぽちもドキドキなんてしない。


むしろ、ウザい。


「あー…適当に言いわけつけて鞄とって来いよ」

「は?」

「いらねぇの、鞄」

「いるに決まってる」

「じゃ、鞄持ってきたら昇降口で」

「はぁ!?」

「来なかったら追っかけに行くから」


“じゃ、”

付け加えるようにして足を進めて行くこの男の腕をあたしは咄嗟にギュっと掴む。


男は掴まれた腕に一旦、視線を落とし、更にあたしを見た。


「何?」

「何って、あのねぇ…おかしいでしょ?」

「何が?」

「見ず知らずのアンタとあたし。なのに何でアンタの事で行かなきゃいけないの?何か得する事ある?」

「得するかどうかわ分んねぇけど、でもなんか奢ってやるから」


バッカみたいに勝ち誇ったように笑う男はそそくさとこの場を離れ、階段をスタスタと駆け降りる。

そんな男に訳も分らず、従ってるのはやっぱり馬鹿なあたし。