ハッと我に返った時には何故か颯の胸の中にスッポリ納まってて、


「ちょっ、」


急いであたしは慌てて颯の腕を引き離した。


「ボーっとすんなよ」

「だからって抱きつかないでよ。見られんじゃん」

「ま、それもいいんじゃねーの?」


そう言って歩き出す颯の背中を見て思った。

もしかしたらあたしが追ってた視線に気づいてたのかも知れない。


それを遮るようにあたしの視界を奪ったのなら、


正直、それで良かったって思う。



でも、そうじゃなかったらただの馬鹿だ。


「ちょっと、ねぇ!!」

「うん?」


進めていた足を止め振り向く颯は首を傾げる。


「あのさ、思うんだけどあたしが得する事って何もないよね?」

「は?…んだ、それ」

「だからさ、これって颯の為にそうしてるだけであって、颯はそれでいいかもだけど、あたしにしたら得する事なにもないよね?」


だって、考えたらそうじゃん。

そうする前から少しは思っていたけど、やっぱしあたしに対してのいい事はなにもない。


ましてや噂が飛び散るだけ。


「さぁ、どうだろ。でも、なんかあったら助けてやるよ?」

「別にないし、それって得って言うのかな」

「お前ってホント冷めてんな。他の女なら喜んで飛びついてくんのによ」

「じゃ、他にすれば?」


フイっとそっぽを向き背を向けて足を進めると、背後からクスクス笑う颯の声と足音が近づく。