さっきの三橋さんの話、心底信じちゃってるみたいだし。
そんな人達には……なにを言っても、無駄だよね?
……というか、むしろ、なにも言わないほうがいいよね?
だって、小学校の林間学校かなんかの肝試しのとき……。
さっきみたいなことをあたしが言ったら……。
「心優ちゃん、ちょっと怖くないからって、それ自慢!?
超感じ悪い!!」
……とかなんとか、めちゃくちゃなことを言われて、仲間はずれにされたことがあったし。
うん……。
やめとこう……。
そんなことを……パニくる女の子達を見ながら思ったとき……。
「へぇ、心優は。
マジで、ここ、怖くないんだ?」
ぽふっと。
頭の上に、大きな手のひらが落ちてきた。
「ん……。
まぁ……。
気味が悪いとは思うけど……。
怖くて泣いちゃうとかは、ないよ」
手をのせられた方向、斜め上にある五十嵐くんの顔を見あげると……。
「その冷静な顔。
いつまで続くか、楽しみだな」
五十嵐くんは、口元をニヤッと歪めた。
そして……。
「んじゃ、行くか。
ミステリースポット探検とやらに。
結末を教えてやらなきゃいけないからな。
ひとりだけ逃げた、ズルい三橋さんに」
そう言ってクスクスっと笑うと、五十嵐くんはあたしの手をキュッと掴んで、歩き出した。
「あ、そうだ」
廃墟と化した病院の中、数歩歩いたところで、五十嵐くんがあたしを振り返った。
「心優。
こうして俺と手ェ繋いでるのと。
俺の腕につかまってるの、どっちがいい?」
そんなことを言いながら、五十嵐くんは、掴んだあたしの手をぷらぷら振った。
「俺はどっちでもいいから、心優に選ばせてやるよ」
「……っ」
そう言われると……。
「んー……」
迷うなぁ……。
こうして手を繋いでるだけでも幸せだけど……。
もしかしたら、五十嵐くんの腕につかまったほうが、もっと幸せ?
でも、そんなことしたら……。
きっと、あたし、心臓がもたない!!
だから……。
「こっ……。
このままでいい……」
あたしは、もごもごっと口を動かした。
「ふーん。
じゃ、このままで」
キュッと……あたしの手を握りなおす五十嵐くん。
「だけど、俺の腕につかまりたくなったら、いつでも言えよ?」
優しい声でそう言って、五十嵐くんは暗くて長い廊下を歩き出した。
元病院らしく……何十年も前の建物なのに、消毒液の匂いがする。
そんなの……ここのアトラクションの演出だと思うけど……。
それでも、あまり気持ちのいいものじゃない。
あたしは、大好きだったおばあちゃんが亡くなったときのことを思い出した。
おばあちゃん……。
今、天国で……なにしてるかな?
会いたいなぁ……。
そんなことを考えると、心が妙にしんみりして、あたしは唇をかみしめた。
細く暗い廊下は、延々と続く。
途中、崩れかけた部屋がたくさんあって、チラッとのぞいたけど、なんにも起こらなくて……。
あたし達は、2階へと続く階段をのぼり始めた。
「もしかして。
このままなにも起こらないとか……。
あるかなぁ?」
そんなひとり言を口にすると……。
「心優、それ、斬新!」
あたしをチラッと振り返り、五十嵐くんは短い口笛をピュッと鳴らした。
「余裕あるな。
のぞみとは、大違いだ」
「……え?
のんちゃんは……?」
「ここの時点で、もう俺にしがみついて号泣してた」
「そっかぁ……。
うん。
のんちゃんなら、そうかも……」
だって、小学校のときの林間学校の肝試し。
あれも怖いからって、行かなかったし。
でも結局、ひとりで待ってるのも怖いって……。