その言葉をあえて飲み込んで……。
バババッと……。
焦って、かずくんの服を掴んだ。
「だから……。
い……言わないでっ」
“2回とも、あたしの意思なんかじゃない!!”
すると……。
あたしの手の上に自分の手を重ねたかずくんは、あたしの手を、ゆっくりと洋服から離させながら、にっこり笑った。
「心優、掴むな。
これ、撮影用の服だから」
「……え?
撮影……用……?」
「そ。
オレ……。
……って、まぁ、いいか。
こういうことは、一気にバラしたほうが面白いし、な」
意味のわからないひとり言を呟いて、かずくんはあたしの頭をポンポン叩いた。
「べつに、オレも鬼じゃないし?
言わないでいてやってもいいよ?」
「……え?」
「だーかーら。
煌に言わないでやってもいいって」
かずくんは、天使の笑顔で優しく笑う。
でも、この天使の笑顔の裏には……。
「その代わり。
ひとつ条件がある」
……いつも悪魔が潜んでいる。
「……な……に?」
ゴクリと生つばを飲み込むあたしを見おろし……。
かずくんは、クスリと冷たい笑いをのぞかせ、ゆっくり言った。
「キスのこと。
煌にバラされたくなければ、オレと付き合え」
「……えっ!?」
驚いて、大声を出したあたしの肩を抱きよせ……。
「だーかーらー。
言い換えれば。
優しいオレは、心優に、選択肢を2つやるって言ってんの」
「…………」
かずくんはあたしの耳に、妖艶な声を流し込む。
「どっちを選ぶかは、心優次第。
でも、煌、傷つくだろうなぁ」
「……え?」
「心優がキスしたことあるのを知ったら」
「……っ」
「だって、煌。
男ギライで、男慣れしてないから、心優のことを気に入ったみたいだし?」
「…………」
なにも反論できないあたしを、さらにかずくんは追い詰める。
「それなのに。
キスは、とっくの昔にすんでました。
しかも、煌の友達と!」
「…………」
「……とか、マジで、プライド傷つくんじゃん?」
「……っ」
「だって、それ。
清純なフリした心優に、騙されてたってことだもんな?」
かずくんは、言葉を落とすと同時に、あたしのおでこをツンツン突いた。
「心優、悪い女~♪」
「ち……ちがっ……。
だ……騙してなんかっ……」
大声をあげたあたしに、かずくんはクスクスと意地の悪い笑顔を落とす。
「でも、心優。
言ってないんだろ?
だったら、同じことじゃねぇ?」
「っ……。
そんなこと……」
“ないもん……”
わざと言わなかったんじゃないもん。
言う必要……ないと思ったから……。
でも……。
『この前、初めてのキスをした心優ちゃんには。
今日のことは、ちょっと刺激が強かったかな?』
『おまえの初めては。
全部俺が教えるんだから』
煌は……。
あたしのファーストキスは、煌だと思ってる。
だったら、かずくんにキスされたことがあること、煌に言ってないってことが……。
あたしが煌のことを騙していることになるの?
「…………」
黙り込むあたしの上、かずくんはさらにあたしを追い詰める言葉を落とす。
「それに、“付き合ってる彼女が、他の男にキスされた”とか。
オレだったら、イヤだけど?
心優、今、オレにキスされたよな?」
「……っ」
「そんな心優。
煌にキラわれるんじゃねぇ?」
「……えっ!?」
でも、今のキスも、かずくんが無理やり……。
そんな言葉を飲み込んだのは……。
さっきの煌の言葉を思い出したから。