こんなこともあった。

母上様が両手いっぱいに菜の花を抱えて、里から戻られた。


「まぁ、たくさんの菜の花。」


「与作という男がおるだろう?
なにやら、木の陰から妾をコソコソ見ておるので声を掛けたら、これをくれたのじゃ。」


「そうでございましたか。」


「月夜、湯を沸かせ。
からし和えが良いだろうか。
いつもモジモジして女々しい男じゃと思っておったが、案外良い奴じゃな。」




モジモジして、木の陰から見つめて、花をくれる。

与作さんは、所謂そーゆーお年頃だし…


「母上様…
それは贈り物なのでは?」


「?
そう言ったであろう?
ちょっと、川へ行って洗ってくる。」


心から嬉しそうに笑って、すっ飛んで行かれた母上様…

うん、可愛い。
可愛いケドも。

食いモンじゃねぇぇぇぇぇ!!
ソレ、与作の思いの丈───!!

あぁ、ツッコみたいけどツッコめない。

母上様に思いを寄せる殿方は、報われない。

黒曜様のご苦労など、月夜は想像したくもございません。