「ありがとう綾瀬。俺、綾瀬に会えてよかった。こんなスッキリして晴れやかな気持ちで別の学校に行けるなんて初めてだよ。」


凄く嬉しい言葉なのに、それは、別れの時がすぐそこまで来ているのだと言っているのと同じだった。


「私も、成瀬君と会えてよかったよ。一緒に踊ったことも、買い物したことだって、絶対に、絶対に忘れないから。だから、成瀬君も覚えててくれると嬉しい。」


『大変お待たせ致しました。2番線より電車が発車します。』


2人を引き裂くかのようなアナウンス。止まっていた電車が動き出そうとしていた。


もう少し時間があれば、成瀬君の大好きな笑顔と大好きな声を、目と心に焼き付けることができる。それにまだ2つ目を伝えていない。

お願い!もう少し、もう少しだけ、時間を下さい。


「忘れることなんて、できないって。思い出があれば次に繋げることができるんだろう?綾瀬はもうちょっと自分の言ったことに自信持てよ。間違ってなんてないからさ。」


成瀬君の足が動く。少しの段差を乗り越えて、車内へ入って扉の前に立つ。


もし、私に1人きりで生きていける力があったなら、迷わず電車の中に飛び込んでいる。


でも、まだ高校生の私にそんな力は無かった。だから、これ以上は踏み込めない。たったの数十センチがこんなにも遠いなんて・・・