十八時集合で、割烹料理屋『朧月』に。
一旦みんなと別れて、自宅で着替えた。
俺の隣りに座る絢は、可愛らしい黒のフレアのミニスカートに
オフホワイトのVネックのニットを合わせた出で立ちで。
その更に隣りに座るゆずちゃんと見比べても
殆ど胸の大きさは変わらない。
1年前の彼女では想像がつかないほど、
絢のお胸様は素晴らしい成長を遂げたようだ。
ゆずちゃんの更に奥に座るユウが、
さっきからゆずちゃんの脚の上に手を置いて彷徨わせてる。
うちらの親がいるんだから、
もう少し自制心を持てって!
「慧っ、お刺身、取ろうか?」
「あ、うん、頼む」
自分の前にもコース料理が並んでいるが、
宝船に乗った季節限定のお刺身が、
絢とゆずちゃんの間の前にどかんと置かれているからだ。
こういう気遣いが出来るのも、絢の長所。
ユウは早速ゆずちゃんに『あれ取って』攻撃で甘えてる。
両親達は、普段なかなか揃うことが無いとあって
開始直後からハイペースでお酒を飲んでる。
そんな盛り上がってる中、
ユウの父親が爆弾を投下した。
「ゆずちゃん」
「はいっ」
「ユウと結納するかい?」
「はい?」
酔いが回って言っているのかと思ったら、
俺と絢が結納したのを知ったらしく、
ゆずちゃんを溺愛してるユウの父親が、
今のうちに小金井家に囲ってしまおう!作戦らしくて。
ゆずちゃんの両親も驚きを隠せない感じ。
まぁ、本人は、まんざらでもないみたいだけど。
「ゆずちゃん、そしたら毎日ユウに会えるよ?」
「えっ?!」
一人暮らしをさせたくないのか、
半強制的に同居を示唆している。
まぁ、ユウの家は大手の建設会社ということもあって、
5階建てのビルっぽい自宅だから、
部屋は腐るほどあるんだろうけど。
ゆずちゃんには4つ下に弟がいて、
娘を遠くに嫁がせるわけでもないし、
家には下の子がいることもあって、
特段反対してる素振りもない。
もしかしたら、近い将来、
俺らの後輩が出来るかも……?
「さすがに慧くんみたいにうちの息子はしっかりしてないから、2人暮らしは認められないなぁ」
「卒業と同時に一人娘をあんな遠くに手放せる自信は私共には無いですよ」
ゆずちゃんの母親の言葉に、俺も納得。
よく一人娘を手放す気になれたものだよ。
って、俺がそう仕向けたんだけど……。
「過保護というほど桐箱に入れて育てたわけじゃないですけど、この3年間、毎日少しずつ手放すための努力をして来ましたから」
「そういう期間がうちらにも必要だな」
「そうね」
ゆずちゃんの父親の意見は至極当然だ。
俺に一人娘がいたら、たぶん即答は出来ないだろう。
優しい眼差しを向けてくれる絢の両親に深々とお辞儀した。
「大事な娘さんを攫うような真似を許可して頂き、本当に感謝してます。有難うございます」
「慧くん、娘を宜しく頼むよ」
「はい」
「やだっ、私が絢ちゃんを嫁に出すみたいで、泣きそうだわっ」
ゆずちゃんの母親が、目に涙を滲ませた。
昔からよく知っているからだろう。
俺らは本当に恵まれている。
交際自体を反対する親も多い中、
交際を許可して貰い、こうして温かく見守って貰って。
その先も、当然のように受け入れてくれる両親達に
感謝してもしきれない。
俺らは、感謝の気持ちも込めて
両親らに花束を手渡し、お酒を次に回った。
そして、一番大事なことは
約3年前に出会い
心変わりもせずにずっと想い続けてくれた恋人に
最大の感謝を込めて……。
卒業は新たな人生のスタートだ。
そのスタート地点に
同じ相手がいてくれることが何よりも嬉しくて。
「これからもよろしくな」
「こちらこそ、よろしくね」
~FIN~
拙作『ブラック王子に狙われて②』を
最後までお読み下さり、誠に有難うございました。
この作品は、10年以上前に書いた
『ブラック王子に狙われて①』の続編的作品ですが、如何でしたか?
先の先まで見越す腹黒の慧くんの激甘で溺愛の日常を主軸に
それぞれのキャラが少しずつ成長する様を描きました。
子供から大人へと成長を遂げる、そんな時期。
誰もが悩み多き日々を過ごすかと思います。
ただ甘いだけでは飽きてしまうし、
青春だけにクローズアップしても物足りない。
そこに笑いときゅんとほんの僅かな感動と。
そんなエピソードに仕上げたつもりです。
一瞬でも楽しんで頂けたら本望です。
続々編は、今のところ予定しておりませんが、
蓮条のことです(笑)
そのうち書きたくなったらまたフラッと書き始めるかも。
SS的な短編でしたら、
他の作品同様、『Special Edition②』に追加すると思います。
宜しければ、そちらもご贔屓頂ければ幸いに存じます。
最後に
いつも温かく見守って下さる皆様
素敵なコメントをお寄せ下さる皆様
拙作にもかかわらず、ずっと追いかけて下さった皆様
本当にありがとうございました。
今後ともどうぞ、蓮条を
ご贔屓頂けたら嬉しゅうございます。
皆様に最大限の愛を込めて……
2023.05.06.
蓮条 拝