ブラック王子に狙われて②



『初恋』じゃないと分かった所で、

安堵して良いものか、何なのか……。

今の俺、完全にパニクってる。


まさか『プロポーズ』が来るとは思ってもみなくて

絢の言葉に呆然としてしまう俺。


…ん?

今日も告白……って?!


はっ?!

俺が迎えに行った時に絢の手を握ってたのは

告白してたって事なのか?


落ち着け……落ち着け……俺。

告白がどうしたってんだよ。

そんなの良くある事だろ?

今までだって、告白され続けてたんだから。


でも、何かが引っかかる。

やっぱり、『幼馴染』だからか?



「で、何て答えたんだよ、絢は」

「そんなの決まってるじゃない!!彼氏がいるからムリって言ったよ?」

「彼氏……ねぇ…」

「何?その言い方…」

「俺と付き合ってなかったら、アイツと付き合うつもりか?」

「はっ?冗談はやめてよ」

「いや、俺……マジだけど」

「えっ?」


苦笑する絢に俺は真剣な眼差しで、




「アイツを男として、どうなんだ?」

「ありえない!!」

「何で?結構、イケメンだったぞ?」

「だって……」

「ん?」


絢は俯いて、両手で顔を覆った。


「ん?だって、何?」

「………」


暫く黙ったままの絢は耳まで真っ赤にして


「だって、私は…は、初恋を大事にしたいんだもん////」

「……初…恋?」

「もう!!これ以上言わせないでよ////」


絢は真っ赤な顔で俺の胸に飛び込んで来た。



――――えっ?!!

………俺??!!!



「絢の初恋って……俺?」


抱きしめながら耳元で呟くと、


「……////////」


黙ったまま、俺のYシャツを掴んで

小さくコクンと頷いた。


ッ!!////////

ヤバい……。

俺、今、すげぇ感動してる。


俺の初恋の女が俺を初恋の相手だと…。




「絢、今日……いいよな?」

「えっ…ちょっ…待って////」

「待てねぇ」

「えっ…ちょっと…ッん!!////」



俺は絢を抱きしめたまま、

そっとベッドへ倒れ込んで―――



いつもより優しくキスの雨を降らす。

ハニカミながら俺に応える絢。


マジで可愛すぎてメチャクチャにしてぇ。



ぷっくりとした小さな唇に

チュッと軽く吸いつくと、

部屋に響く艶気のあるリップ音。



胸に添えられた絢の手を

ゆっくり俺の首に絡めて。



華奢な絢の身体を抱き寄せ

深い蕩けるようなキスを仕掛ける。



不意打ちのキスでなく

無理やり奪う強引なキスでも無く


俺の恋しい女にする

極上でスペシャルなキス



それは初恋の相手にしか感じない

甘く蕩けるような……蜜の味。



……そう、

これが俺の

『初恋のキスの味』




4月下旬の金曜日の放課後。


自宅へ帰宅すると、

玄関には見慣れぬ男物の靴があった。


……誰だろう?



ちょっと緊張しながらリビングのドアを開けると、


「おかえり」

「……ただいま」

「久しぶりだな……絢」

「え?………失礼ですけど、どなたですか?」

「は?……………今の聞きました?」

「えぇ、私にも聞こえたわ」



玄関の靴の持ち主であろう若い男の人が

母親と親しげに話している。


今年40歳になろうとしている母親と

如何にも大学生くらいの若い男が

親密な雰囲気を醸し出していたら

誰だって不思議になるよね?



私はダイニングにいる2人の傍に歩み寄り、

マジマジとその若い男を見据えた。


すると、




「ホントに分かんねぇの?」

「…………はい」



目の前で不服そうな表情をする彼に

私は内心イラッとした。


ちょっと馴れ馴れしいよ、この人。



見た目はハッキリとした目鼻立ちに

少し日に焼けた感じが

如何にも大学生って感じで、

手足もスラリと長い所を見ると

かなりモテそうなイケメンなのは確かだけど。



だけど、慧くんには劣る。

彼は超人なみの完璧人間だからね。


無意識に彼を思い浮かべていたら、

思わず笑みが零れていた。


すると、


「絢、彼は達則(たつのり)君よ」

「へ?」

「お前、名前聞いても思い出せねぇとか言わねぇよな?」


かなりムッとした表情の彼。

母親のアシストを受けて、

漸く脳内が働き出した。


達則……って、あの……たっちゃん?!




「おっ?!その表情だと、思い出したみたいだな」


私が驚愕の表情で見つめると、

そんな暢気な答えが返って来た。


「どうしたの?……急に」



目の前の男の正体が明らかになった。


彼の名前は佐伯達則(さえき たつのり)。

やっくんの5歳上のお兄さん。

小さい頃はよく一緒に遊んだ仲だ。



「絢」

「ん?」

「今日から達則君に家庭教師をして貰おうと思うんだけど」

「へ?」

「本来なら大学4年で忙しい時期らしいんだけど、大学院へ進むんですって」

「………それで?」

「だから、勉強がてら教えてくれるって」

「は?………誰も頼んでないよ?」

「あっ、お前、それ酷い言い方だな」

「だって……」



別に家庭教師なんて要らないよ。

私には慧くんがいるし。



私が納得のいかない表情を浮かべると、




「大学行きたいんじゃないの?」

「………うん」

「彼氏に教わってるみたいけど、特進クラスなんだろ?」

「………うん」

「彼氏だって、自分の勉強があるだろ」

「………ん」


分かってるよ、そんなこと。

学年トップだし、全国模試でも常に上位だし。

私なんかに割いてる時間が惜しいことくらい。


だけど、逢いたいんだもん。

科が違うから棟自体も違うし、

接点なんて無理やり作らなきゃ

学校での接点なんて皆無だってことも。


「絢は基本さえおさえれば、直ぐに成績上がるはず」

「っ……」


それは慧くんも言ってた。

概念?基礎?になる土台部分が理解出来たら

あとはちゃんと当てはめて解くのは問題ないって、

いつも優しく諭される。


「俺、教育学部専攻だから、俺の為にも、な?」

「……な?って言われても……」


そりゃあ、成績は上げたいよ。

将来のことはまだ何も考えてないけど

大学か専門学校には行きたいと思ってるし。



「いいじゃない、もう少し成績が上がるまで……とかにすれば」

「うっ…ん~ッ…」


ママは私の成績を上げたがってる。

それは分かってるんだけど。


「週何回?」

「おっ、やる気になったか?」

「べ、別にそんなんじゃ……」

「慧くんが月水金が遅帰りって言ってたから、月水金の予定の合う日でどう?」

「月水金………」


慧くんの授業が1時間多い日。

それなら、問題ないかな……?


慧くんに逢える日が減るのは嫌だもん。

それじゃなくても学校で逢えないのに。


「……分かった」

「おっ、よし、決まりな!」

「でもっ、成績が上がったら終わりだからね!!」

「おぅ!」


たっちゃんは楽しそうに早速手帳を開き始めた。

勉強………。

自分の脳みそが恨めしい。


「じゃあ、早速今日からな?」

「うっ……ん…」


次の試験で成績を上げて

慧くんにいっぱい褒めて貰おうっと。

そしたら、いっぱい撫でなでもぎゅーもして貰うんだから。



GWがあっという間に終わってしまった。


人混みが大嫌いな彼氏を持つと

どこどこ行きたいとは言いづらい。

だけど、そんな彼でも少しは譲歩してくれて。

映画館と公園ピクニックはして貰えた。

残りはお互いの家を行き来しただけだけど。


別にどこかに行きたい!という所があるわけじゃない。

目の前に、隣りに、手の届く場所に

彼がいてくれれば、それでいい。


あんなハイスぺ男子の王子様が彼氏なんだもん。

高望みしたら罰が当たる。


ペアリングを毎日着けてくれてるし

頻繁に朝、迎えに来てくれるし。

一緒に帰れる日は、男友達との約束より優先してくれる。

だから、文句は言わない。


「絢、達則くん、1時間くらい遅れるって」

「そうなんだ」

「予習復習でもしときなさい、中間テスト近いんだから」

「ぅっ……」


今月末にある中間テスト。

去年に比べたらだいぶ成績も上がってるんだけど

慧くんに比べたら全然。

中の上くらいじゃねぇ……。

彼の彼女として威厳を保つためにも頑張らないと。


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