ブラック王子に狙われて②


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夕食を食べ終え、一旦部屋に上がった俺ら。

21時頃に母親が送って行く事になってて。

それまでの間、部屋で寛いでる最中。


「慧くんっ/////」

「ん?」

「いつ、泊まりに来ていい?/////」

「いつでもいいよ」

「っ//////」


さっき、夕食を摂りながら

絢のおねだりの『お泊り』の話になり

父親不在だけど、うちの両親からという事で

絢のお泊りの許可が下りた。


で、絢はそれが嬉しいようで

さっきから俺の顔色を窺ってる。


ねぇ、分かってる?

俺、さっきプロポーズめいたことを言ったんだよ?

その流れで『お泊り』の話題出すとか……。

どんな思考回路してんだよっ。


俺の母親なんて、

完全にプロポーズが成功したと思い込んでる。

まだ、返事貰ってないのに。


ってか、『お泊り』したいくらいだから

プロポーズもOKという流れでいいのか?


脳内が軽くクラッシュしながらベッドに腰を下ろすと、

絢が珍しく自ら俺の隣りに腰を下ろした。




「どうした?」

「っ//////」


無言で照れられても、こっちが困るんだけど?


「絢の両親が許可してくれるなら、いつでも来ていいよ」


ポンポンと頭を撫でると、

頬を赤く染めた彼女がまん丸の目で見つめて来た。


「それって/////連泊でもいいのっ?/////」

「は?」


連泊って、何?

何語……??

え、マジで言ってんの?


「絢」

「はいっ」

「頭、どこかで打ったのか?」

「っ……打ってないよっ」

「じゃあ、正気なんだな?」

「……ん、もちろん//////」


昨日といい、今日といい。

絢が少しおかしい。

まぁ、俺的には嬉しい悲鳴なんだけど。

これに慣れたら、元の状態に戻れなくなりそうで。


「連泊したいの?」

「うん//////」

「何で?」

「何でって//////……慧くんとずっと一緒にいたいんだもんっ//////」

「っ//////」


俺の腕におでこを預けた絢。

照れを隠す為に俺のセーターをぎゅっと掴んで。


ストレートすぎんだろっ。

けど、まだ返事貰ってないから

ちょっとここは距離を取って……。



絢のおでこをぐ~~っと人差し指で押し退け、

俺の腕に張り付いてるのを無理やり剥がす。


「……慧、くん?」

「何」

「っ……」


俺の行動が意外だったようで、

みるみるうちに目に涙が溜まる。


「返事まだ貰ってないから」

「ん~んっ」


拗ねてもダメ。


「1つしかないご褒美券を使ったんだからな?」

「っ……分かってるよっ」


別に甘やかしたくないわけじゃない。

俺の真剣な気持ちを理解して欲しいだけ。

遊びじゃない。

将来を見据えて、ちゃんと考えて出した結果なんだから

甘えでおねだりしてるのと同列に考えて欲しくない。


「慧…くんっ」

「ん?」

「ちゃんと真剣に考えるからっ、連泊してもいいっ?/////」


結局、そこかよ。

まぁ、俺的にも、連泊してくれるのは嬉しいけど。

いいのか?

こんな順調で。

何だか拍子抜けというか。

何かトラブル起きた時、俺、冷静でいられるだろうか?


「進学先決めるまでの間に返事貰える?」

「………」

「それによって、進学先が変わるから」

「……ん、分かった」


小さく頷いた絢。

そんな絢に応えるように。


「ヨロシク」

「っ//////」


俺はぎゅっと彼女を抱き締めた。




「絢ちゃん、いらっしゃ~い」

「お邪魔しま~す」


とうとうこの日がやって来た。

クリスマス・イヴに彼におねだりして、

翌日のクリスマスに慧くんママにおねだりして。

『神宮寺家』へお泊りする許可をゲットした私は、

クリスマスよりも今日の方が一大イベントかと思うくらい

ぐっすり寝れないくらいドキドキしてしまって。


というのも、前々から

『今年のクリスマス』は特別なことはしないでおこう!と、

慧くんから釘を刺されていたからだ。

たぶん、1学期の期末試験のご褒美券の残りと

2学期の中間試験のご褒美券も消費してないから

2学期の期末試験のご褒美券も併せて、

私が使うだろうと予測しての流れなんだと思うけど。


だから、ここぞとばかり消費しようと思って。

だって、俺様王子に無条件でおねだり出来るだなんて

物凄~~く貴重なことなんだもん。


そして、そのご褒美券で今日のお泊りをゲット出来たのだから。




別に、お泊りしてる間に何かしようとかは考えていない。

少し前にゆずの家に行った時に、

『長く付き合うコツ』という特集が書かれた雑誌を見て

そこに書かれていたのが、『生活環境の共有』という概念。


大人の交際であれば、『同棲』という枠組で

お互いの生活スキルを確認し合えるけど、

高校生の私達には、それは無理だから。


沖縄旅行を通して、

今まで知らなかった慧くんの素の部分を少し垣間見れて、

それを少しずつ増やせれば……と思ったのがきっかけ。


だって、あの澄ました顔のクール王子が、

あんなにも汗を掻くとは思いもしなくて……。

じとっと額や首に汗を掻くことはあっても

ポタポタ垂れるほど、汗を掻いたのを見たこと無かったから。


たぶん、私が知らない慧くんはまだたくさんある筈。

そういう慧くんを知ることで、

彼のことをもっともっと好きになれそうな気がして。


「絢、何飲む?」

「あったかいのなら、何でもいい」

「ケーキあるから、紅茶でいい?」

「うん、いいよ~」


キッチンで飲み物を用意して、

慧くんママお手製のシフォンケーキを手にして2階へと。



冬休みの宿題をしながら、

時折彼を盗み見して、眼福を味わう。

黙ってたら、文句なしのイケメンだもん。


「集中しろ」

「っ……はい」


盗み見してるのが、バレた。


「絢、英検何級?」

「英検?……3級?中学の時に取って以来、受けて無いけど」

「じゃあさ、来年、2級受けてみ?」

「にっ、……2級?無理じゃない?その間に準2級あるよ?」

「準2は3級に毛が生えたくらいだから、受けてもそれほど意味がないよ」

「……そういうものなの?」

「……まぁ、自論だけど」


不敵に微笑む彼。

きっと彼の脳内は、私なんかが想像できないような構造になってるはず。


数日前に『プロポーズ』的なことを言われた。

彼が思い描く将来図に、何故か私が必要なんだと。

正直それを聞いて、めちゃくちゃ嬉しいし、

どう言葉で表現していいのか分からないくらい倖せなんだけど。

まだ17歳という年齢で、

進学先だけでなく、将来を決めていいのか、分からない。


帰宅して、親に報告相談してみて。

『パティシエ』や『医師』や『保育士』みたいな専門職なら

この年で将来を決めて進路先を決めるのだから、

決して早いわけではないと教わった。



ただ、それは……。

自分の将来という観点においてで。

『結婚』を視野に入れて、というものとは別だと言われ。

確かに、進むべき道を決める段階であっても

それが必ずしも『結婚』に結びつくとは限らない。


少女漫画や小説やドラマじゃないんだから、

許嫁がいるから高校生で入籍します!なんてギャグめいたこと

あり得るわけが無いんだから……。


だけど、彼が望む将来設計はかなり具体化されてて。

『神宮寺 慧』という、驚異的な脳の持ち主だからだと思うけど。

思考回路が高校生並みじゃないことは理解出来る。

恐らく、大学生……いや、社会人並みの思考と決断力なんだろうなって。


「慧くんは何級なの?」

「準1級。……来年1級受けるつもりだけど?」

「ッ?!!!!」


やっぱり、次元が違う。

1級って、大学上級レベルじゃなかった?

CAが2級レベルって聞いたことがあるけど、

既に準1級ってことは……。


「試験前になったら、試験対策してやるし。TOEICとか他のも一緒に受けるぞ」

「っ……」


『受けるぞ』……強制らしい。

私に拒否権はないのだろうか……?



「大学で習得したい科目があるって言ってたけど、どういう系?経済学とか?」

「MBAって分かるか?まぁ、それだけじゃないんだけど。とにかく、必要なスキルは柔軟に吸収するつもり」

「………」


す、すごいっ!

やっぱり、ビジョンがしっかりと確立されてる。

私なんて、大学卒業するまでに将来を決めればいいか的に考えてたのに。

きっと、そういう思考ではいけないんだろうな。

こんなダメダメな私なのに、

何故、慧くんは私が必要なんだろう?

彼女だから?

だけど、適材適所があるように、

優れた人材を傍に置いた方がいいに決まってる。


「何で私なの?」

「何の話?」

「仕事をサポートするのが、何故、私なんだろうか?って思って」

「あぁ、それか」


胡坐を掻いてる慧くんが、体の向きを私の方に向けた。


「事務的処理だとか、専属秘書とか考えたら、専門スキルの人を雇えば話は早いけどさ」

「……ん」

「核の部分がブレたら意味なくね?」

「核?」

「ん」


慧くんがテーブルに頬杖をついた。


「俺のやる気が常にMAXでキープされるために……絢が必要だから」

「っ////////」



やだっ///////

何これ、またプロポーズ?!

別に『好き』とか『愛してる』とか言われたわけじゃないのに

脳が、体が勝手に反応しちゃう//////


そりゃあ、好きな人が傍にいてくれたら

頑張れる勇気が湧いたりするけど。

でもでも、そんな毎日一緒にいてウザくならないのかな?

毎日見てたら、100年の恋も覚めるとか言うし……。


「毎日見てて、見飽きない?」

「何を?」

「私を」

「フッ、見飽きてたら別れるだろ、普通」

「っ……、そうだね」


慧くんと別れる?

……無理、むり。

やだっ、そんなの!


「何だよ……この手」


思わず胡坐を掻いてる彼の脚の上に手を置いてしまった。

だって、腕組してて、腕部分の服を引っ張る勇気が無くて。


「慧くん、私と別れたいって思った事ある?」

「無い」

「ウフフッ、即答なんだ♪」

「っ/////そういう絢はどうなんだよっ」

「ひみつ」

「んだよっ、それ」


去年の春に知り合って、強制で付き合ってた頃は

毎日別れたくて仕方なかった。

怖いし、苛めるし、周りの目が怖くて。

だけど、ちゃんと付き合い出してからは一度もない。