その後はみんなで久しぶりに、談笑した。
「あ、もうこんな時間か」
ふと、ヨースケが時計を見て言った。
「じゃぁ、俺ら帰るわ」
ジルが立ち上がり、名前も決めないといけねーしなと腕を組む。
……そういえば、前にジルの勘違いでアルが妊娠したとか、そういうことなかったけ。
で、その時にジルはもう名前決めたんじゃなかったっけ?
なんて思いながらぼんやりと、昔のことを思い出す。
「お大事にねー」
「元気な子、産みなよ」
アルがいたずらっ子のように笑い、シロさんが小さく手を振る。
何故か、シロさんともう会えなくなるのではないかと思う程、儚げだった。
ヨースケとジルとアルが出ていったこの病室は、いつの間にかさっきまでの賑やかさを失っていて、ひどく寂しい。
「えっと…」
だから私は言葉を探す。
「無理に話さなくてもいいんじゃない」
クスリと微笑んでシロさんはそう言い、窓の外を見る。
7月の下旬だとはいえ、夜の七時は暗くて星が見える。
「…………………………」
私がいる場所からでは、彼がどんな顔をして窓の外を見ているのか分からない。
ただ、私の目に映る彼は、どこか悲しげだ。
沈黙が、暫く続いた。
楽しげに廊下を歩いていく、患者か医療関係者の声がする。
それからゴォゴォと鳴る風の音。
「…………………………」
彼が目を閉じて、深く息を吐く。
この音が好きなのだろうか。
それとも、ただ単に彼は沈黙が好きなだけなのだろうか。
だけど私は、早くこの気まずい空間から逃げ出したくてたまらなかった。
「………もし俺が、」
唐突に彼が言った。
さっきとは違い、その声音は泣いているんじゃないかと思うほど。
「もし俺が死んだら、みんな忘れていくんだろうね」
自嘲しているようだった。
『死んでいった仲間を忘れていくように』と。
「そんなこと……」
私は咄嗟に否定しようとした。
だけど、「そんなことない」とは言えなかった。
私自身、死んでいった仲間を全員覚えているかと聞かれて、「はい」とは言えないからだ。
だけど、貴方は私にとってとても大切な人です。
「ソンジュさんなら、それはないと思います」
なんとなく、思ったことを口にしてみる。
「……そうだね」
彼は自分のヒトリゴトに返事が返って来るとは思ってもみなかったのか、それとも面倒臭くなったのか、それだけ言って私をこの部屋から追い出した。
パタンと閉まったドアを背にし、息を吐く。
そんなことない。
「貴方は私の心の中で生きている」
たとえ貴方が死んでしまっても。
なんてどこかの歌詞にありそうなことを思い、私はその場を後にした。