「ったくもー…アンタいつまで泣いてんのよ。辛気臭いわね」
ベシッと背中を叩かれ、私は顔を上げる。
カルテを左手に持って腕を組んでいるカレンが、イラついたような表情を浮かべていた。
「聞いてたわよ、さっきの話」
「え」
彼女は唐突に言い、理解するのに時間がかかった。
「当たり前じゃない。そこ、ナースステーションに近いんだから」
「!!?」
何とも言えない絶望を与えられた私は、彼女が指した場所を見る。
おぉ、確かにナースステーションがある。
「……聞いてたんですか…」
はっ、と力なく笑い、俯く。
「安心しなさいよ。アタシかアイツかアンタか、人に言わなきゃ噂になりゃしないわ」
「え?」
私は彼女が言った言葉を、噛み砕くことが出来なくてキョトンとする。
「アイツのことは鋭いのに、こういうこと鈍いのね」
カレンが小さく舌打ちして、眉にシワを寄せる。
どうリアクションをすればいいのか分からない私は、はは、と苦笑した。
「……………………………」
「……………………………」
「アンタ、アイツが病気になってるの見抜けなくて泣いてたんでしょ」
「…へェ……」
不意に、その通りのことを口にしたカレンは、真剣な顔だった。
……私の答えに思いきり眉を寄せたが。
「後悔する必要はないわよ。アイツはバレてもこうしたから」
「……………………………」
私は彼女をそっと、見る。
「アンタに自分の病気の詳し説明、しなくてホッとしてたし」
「……………………………」
「分かったら、ささっと戻ってウサギ滅ぼしなさいよ」
そう言って彼女は、私の背中をもう一度ベシッとカルテで叩く。
もしかして彼女は、私を励ましてくれているのだろうか。
「…………なによ」
ジッと見ていたのが気に障ったらしい。
鬼の形相に変わってしまった。
「死なない程度に怪我したら、ちゃんと来るのよ。処置してあげるから」
「……死んだら?」
「死んだ戦士に興味は無いわ」
ズバッと言い、彼女は目を閉じて息を吐いた。
「もういいから、戻りなさいよ。めんどくさいわねー」
そして彼女は、話しかけるんじゃなかったとかブツブツ言いながら、病棟の方へ行ってしまった。
彼女の言葉には少し刺や毒があったけど、少し救われた気がした。