「…だ…だいじょうぶでず」
散々彼の肩を貸してもらって泣いた後、顔を上げて彼を見ると、思った通り、シロさんの目の中にいる私は、目が腫れていた。
泣きすぎた所為か、少し頭が痛い。
だけど、もう大丈夫だ。
散々泣いた。
散々迷惑かけた。
もうだいじょうぶ。
それに彼も大丈夫だ。
彼がこんな病気に負けるはずがない。
こんなにも、一人でここまで頑張ってきているのだから。
負けて、一人で逝ってしまうような人ではない筈だ。
なんて、こんな綺麗事みたいなこと、シロさんに言ったらきっと、思い切り解せないというように眉を顰めるんだろうけど。
「だいじょうぶですよ」
「……………………………」
そういう私に、思った通り彼は眉を顰めた。
君はこの病気のこと俺よりも多く知ってるんじゃないの。
顔にそう書いてあった。
「……シロさんはそんなものに負ける程、弱くありませんから」
もうこの際言ってしまえ。
言わなくて、後悔するよりはマシだ。
「………え……」
私が微笑むと彼は、一瞬面食らったような表情を見せ、失笑した。
「ちょ、何で笑うんですかっ」
この状況で笑うので――いや、もしかしたら私の顔がものすごく笑える顔になってたのかもしれないけど――思わずキッと睨む。
「何でもない」
彼はそう言い、少し口角を上げた。
「俺は君が思っている程、強くない」
息を吐いて、彼は少し眉尻を下げる。
誰だって、どんなに強い人だって、どんなにすごい人だって、弱音を吐いたりするだろう。
心が壊れたり、体調を崩したり、負けてしまうこともあるだろう。
そんなこと、当たり前だ。
「……だったら…私が支えます」
私が支える。
崩れてしまわないように。
私が傍に居たい。
好きな人なら尚更。
「私、シロさんが好きです」
は?
この状況で何言ってるの。
そう彼の顔に書いてあった。
それでも私は。
「だから、貴方が崩れてしまわないように、支えます」
「……………………………」
シロさんは真剣な顔をして、沈黙が、続く。
「俺を支えるのは、構わない」
ポツリと、彼が言葉を発した。
「だけど、」
彼が言葉を止め、真っ直ぐに私を見る。
大丈夫だ。
この先の言葉を聞ける準備は、できている。
「俺は君を慕ってない」
思った通りだ。
「分かってます、それくらい」
吹っ切れはしないけど、私は自分の精いっぱいの笑顔を作る。
こうでもしないと、ここでまた、大泣きしてしまいそうで。
「アルのことが好きなんですよね」
私の質問に、彼は肯定するように少し微笑む。
あぁ、やっぱり。
思った通りだ。
「分かってます、それくらい」
駄目だ。
泣いてしまう。
笑え、私。
そう思いながら笑顔を作る私の顔は、きっとぎこちないだろう。
だけど。
往生際が悪いかもしれないけれど。
「……それでも私は…貴方の傍にいたいです」
面倒臭い女だと思われてもいい。
どう思われてもいいから、言えなくなる前に言いたかった。
「好きにしなよ」
そんな私に呆れたのか、シロさんはそう言い、この場を後にした。
Aliceに入るまでの、人をこんなに好きになるのは初めてだという思いは、私がシロさんに出会ったことで上書きされた。
そんな私の恋は、あっけなく散ったのだった。