「座りなよ」


シロさんに言われて、私は茫然と立っていたことに気づく。


ベンチのような、木の椅子に彼と向き合うように座る。


窓から見える太陽は、地平線に向かっていた。


通っていく人達は、シロさんと私の間に流れる雰囲気を感じ取ったのだろうか。


さっきまでと、あまり人が通らなくなっていた。


そして改めて彼を見ると、最初見たものは幻覚ではなく、事実なのだと思い知らされた。


「俺、辞めるね」


吹っ切れた。


そんなことを思わせる表情を、私に向け、シロさんは少しだけ微笑んだ。


主語はないが、きっとこの部隊を辞めるということだろう。


じゃないと、わざわざ私をここに呼ぶ意味が無い。


「……はい…」


嫌だと言って、何とか説得をしようとは、思わない。


そんなこと微塵にも思わないし、思えない。


こんな状態で戦えるわけがない。


寧ろ、あの状態で聖戦で生き残ったこと自体が奇跡だ。


病魔と闘いながらなんて、もう限界を越している。


歩くことさえ、億劫なはずだから。


「…意外」


ポツリと、シロさんが呟いた。


「色々聞いてくるのかと思った」


彼は顎に肘をついて、目を落とす。


「この病気、知ってるの?」


シロさんが真剣な目で私を見る。


彼の黒目に、私が映った。


「…肝硬変なら、母が……」


それを口にすると、これから彼が死んでしまう哀しみと、もう過去の人になってしまった彼女を思い出して、また涙がぼれる。


「……そう…」


だけどそれは、思ったようにコントロールできず、無様に嗚咽する。


シロさんは私を落ち着かせようとしてくれたのだろうか。


抱き締めて、背中をゆっくりとさすってくれた。


だけどそれがまた、彼女を思い出し、涙があふれていく。


――もう、会えない


母やフィーネさんやギル、ラガーやダラナ、ウルノのように、彼も。


シロさんに、もう会えなくなる。