空もだんだん赤みを帯びてきて、窓からは、少し物寂しげな情景が眺望できた。

ザーという水の音がステンレスの流し台を打ち付け、あたしはそれを邪魔するかのように、コップの泡を洗い流していく。最後のコップを伏せて置き、ようやく水を止めた。

「ねぇ、昇ちゃん。何食べたい?」

「あー、ねぇ」

訳すと多分、「あー、食べたい物なんか別にねぇよ」という事だと思う。昇ちゃんは膝を立てて、ソファに長い足を乗せて座っていた。

「暑いし、冷し中華にしよっか?」

「おー」

昇ちゃんは興味がなさそうだったから、あたしは仕方無く冷蔵庫の中身を覗いた。

あるものは……卵、ハム、チーズ、飲むヨーグルト、牛乳、ビール。

必要最低限の物だけじゃん。


……材料、足りないか。

あたしは冷蔵庫の扉を閉め、リビングの方へ足を進めた。

「ね、昇ちゃん」

「あー?」

「材料、足んないよ」

しゃがんで、昇ちゃんの座るソファに膝を付いてみる。こうでもしないと、昇ちゃんの視界には入れないだろうから。

「買い物、行かなきゃ」

「おー」

「……昇ちゃんも一緒に行こうよ」

昇ちゃんはいつものように眉を顰める。それだけで、何を言うかが分かってしまう。


「あー、だりぃ」

……やっぱり。
だけど、

「だって、あたし1人で行くの?」

あたしがそう言うと、昇ちゃんは少しお尻を浮かせて、ズボンのポケットから黒い使い古した財布を取り出した。それから、中身も見ずに「ん」と言って、財布をあたしに差し出す。


金は出すから買いに行け、と。