プールに入っている時みたいに、視界が涙でぐらぐら揺れている。さっきまで枯れていたくせに、どれだけ出て来れば気が済むんだよ。

昇ちゃんの顔が見えない。

何か言ってよ。
どうして、いつも黙り込むの? 言ってくれなきゃ、分からないじゃない。


もうダメだ。
あたし、昇ちゃんを傷つけた。

昇ちゃんにとって、ただの“面倒臭い女”でしかないあたしは、この状況を更に面倒臭くしか出来ない。

昇ちゃんの、嫌いなものになっていく。

もう、やだ。……消えたい。


腕で荒々しく涙を拭き取って、向きを変える。蚊に噛まれた腕が、外からの刺激を受けて、急に痒くなってきた。

あたしが足を進めようとすると、強く手首を掴まれた。怒っているのか、手加減が出来ていなくて、かなり痛い。それを振り解くには、きっと、凄い力が必要だったと思う。

だから、それを振り解いたあたしは、意外と剛腕なのかもしれない。


「もうやだっ! 触んなっ……!」


……最悪。触んな、だなんて、最低な言葉だ。何でそんな言葉が出てくるんだよ、この口は。

昇ちゃんは驚いた顔をして、あたしを見つめている。涙のせいで、昇ちゃんの顔が歪んでいく。

臆病なあたしは、もうこの場から逃げたくて仕方が無くて、さっきまでふらふらしていたくせに、強く地面を蹴って走り出していた。


離れていく、あたしと昇ちゃんの距離。