さっきまであたしの心臓を宥めてくれていた虫の音は、もう聞こえない。

昇ちゃんは怠そうに片足に体重を乗せて立っている。……何も言わない。


「あのね、聞きたい事が、あるの」

自分を落ち着かせるかのように、出来る限り、ゆっくり話す。

焦っちゃ、ダメだ。きっと、もっと誤解してしまう。

「昨日ね、大事な用があるって言ってたじゃん。アレ、何だったの?」


……しまった。少し、キツイ口調になってしまった。

少し後悔しながらも、訂正はせずに昇ちゃんをじっと見つめる。昇ちゃんは、あたしと目を合わせようとしない。

ねぇ、何で?



やだ、怖いよ……

あたし、不安なんだよ。


今のあたしを不安にさせるのも、安心させるのも、昇ちゃんだけなんだよ?


手が震える。無理矢理作った笑顔も、そろそろ限界だよ。


何か……


「何か言ってよ……昇ちゃん」