ポールにもたれたお尻がいつの間にか痺れていて、仕方無く、段差にゆっくりと腰を下ろす。身体が、あちこち痒い。

夏の夜は蚊が多いという事まで、頭が回らなかった。当たり前の事なのに。露出した足と手が、蚊の好物と化している。

小さく蹲り、足を腕で隠してみた。こんな事をしても、どうせ腕を噛まれるんだろうけど。


ジリジリと、蒸し暑い声が聞こえてくるのに、どこか肌寒い。風邪じゃないなら、汗で冷えたのかな。もう汗もすっかり引いてしまった。熱いのは、腫れた瞼だけ。


昇ちゃん、遅いな。

さっきから人通りが少ない。一体、今は何時なんだろう。いろんな事を考えすぎて、もう、時間の感覚すら分からない。

考えたくなくても、嫌な事ばかり頭に浮かぶ。信じたくても、不安が募る。

人間って、本当に矛盾している。だけど、矛盾しているのは、あたしだけじゃないよね。


ねぇ、昇ちゃんにも、あたしみたいに不安になる事ってあるのかな?
面倒臭いから、不安になったりしないのかな?



ダメだ。前まで分かったつもりでいた昇ちゃんの像は、あたしが造り出した虚像でしかない。

虚ろで、消えそうで、本物じゃない。

もう、昇ちゃんの事が、分からない。


今すぐ聞きたいよ、本物の昇ちゃんの事。