ざわざわうるさい昇降口に、


……いた!

如何にも怠そうな歩き方。
ビーチサンダルを履いて、麦藁帽子を被っている生徒なんて、この学校には昇ちゃんくらいしかいない。

危うく、靴を履き替えるのを忘れそうになり、慌てて靴箱に戻って、イライラと靴を履き替えた。


転がるように、探していた愛しい人の所まで走る。


「しょ……っ、昇ちゃんっ!」

追いつかない背中に、思わず大きな声で叫んでしまった。周りの人達が振り向き、思わず赤面してしまう。

曲がった猫背が、少しだけ振り向いた。

「ん?」

「昇ちゃん、待って!」

昇ちゃんが足を止めたのを見計らい、あたしは慌てて駆け寄った。

恥ずかしいくらい、息切れしている。そりゃあ、あんなにも走ったんだから、仕方無いか。
それでも、必死にこの人を引き止めるために、吐息混じりに声を絞り出す。

「一緒にっ、帰ろ?」

「おー」

昇ちゃんは表情ひとつ変えずに、軽く頷いた。それでもあたしは嬉しくて、素早く昇ちゃんの横に移動する。

昇ちゃんは、ギリギリ開いてると言える目であたしを確認し、気怠そうに足を進め始めた。