どの位寝てたか、フェンス越しに下を覗くと、校庭では部活が始まっている。



「やべ……マジ寝した」



起き上がってぼーっとする頭をワシワシ掻きながら何気なく下を見る。



-………あ-



いた!あの桜の下。昨日と同じところに同じようにあの女の子が。間違いない。


「くっそ、あのやろ…」



昨日のあの態度。改めさせないと気が済まない。


がばっと立ち上がって鞄を掴むと勢い良く階段を掛け降りる。



「あ、常磐~♪」
「常磐!」



あちこちから声を掛けられても全部適当に返事しつつ、昇降口を突っ切る。あの桜が見えて来る。あの娘は……いない。


「あのやろ…どこ行きやがった」


流れる汗を袖口で拭う。
久々の長距離全力疾走に息が上がる。



「はぁっ……」




肩で息をしながら桜を見上げる。こんなん見て何が楽しいんだか……。




-ザワザワッ…-



「あ…………」



風が巻き上がる。今立っているこの場だけ、軽い竜巻が起きた気がした。朝セットし損ねた髪がフワリと揺れる。
それに合わせて桜がクルクル花びらを落としながら揺れている。なんだかよく分かんねぇけど不思議な感覚。



「へぇ………」



アイツがこの桜を見てる気持ち、分かんなくもねぇかもな…。




「常磐!」


女の声。振り向くと野球部のマネージャー。3年の……なんだっけ?



「やっぱ骨折してたんだ」
「あ~……」



変に心配されたくない。ギプスつけた手をそれとなく後ろに隠す。


「うちの暴球のせいだからね。なんかお詫びするよ」
「……じゃ飯」
「え?」
「利き手これじゃ作れねぇんだよ。うち親留守がちだから」



飯でも奢らせればいっかなと思ってたんだけど……。


「作りに行ってあげるよ。うちに」



すっげ嬉しそう。何か勘違いしてんなこれ。訂正すんのも面倒で、自宅の場所を教える。

「部活終わったら行くね………」



しょうがねぇ、久々にうちに帰っかな……。